暑い夏を快適に!汗の不快感を解決する花王の「汗蒸散技術」
近年、地球温暖化の影響で、日本の夏は年々厳しさを増しています。猛暑日や熱帯夜が続き、私たちの体は常に暑さとの戦いを強いられています。そんな中で、多くの人が悩まされているのが「汗」による不快感ではないでしょうか。ベタつき、ニオイ、あせもなど、汗にまつわる悩みは尽きません。
しかし、汗は単なる不快なものではありません。私たちの体にとって、汗は体温を調節し、健康を維持するために不可欠な存在です。花王株式会社のスキンケア研究所は、この汗本来の重要な機能を活かしながら、暑熱環境下でも肌を快適に保つための画期的な技術「汗蒸散技術」を開発しました。今回は、この新しい技術がどのようにして私たちの夏の悩みを解決してくれるのか、その秘密に迫ります。
汗は私たちの体の「エアコン」!そのメカニズムと夏の肌の悩み
体温調節の要、汗のメカニズム
私たちの体は、常に一定の体温を保とうとしています。体温が上がりすぎると、生命活動に支障をきたしてしまうからです。そこで活躍するのが「汗」です。汗は、皮膚の表面にある「汗腺」から分泌されます。汗腺には主に2種類あり、全身に分布し体温調節を担う「エクリン腺」と、ワキの下やデリケートゾーンなどにあり、ニオイの原因となる汗を出す「アポクリン腺」があります。
暑さを感じたり、運動したりして体温が上昇すると、脳の視床下部にある体温調節中枢が働き、エクリン腺から汗が分泌されます。この汗が皮膚の表面で蒸発する際に、体の熱を奪ってくれるのです。ちょうど打ち水が地面の熱を奪って涼しくするのと同じ原理で、この「気化熱」によって体温が下がり、私たちは暑さから体を守ることができます。汗は、まさに私たちの体に備わった天然の「エアコン」と言えるでしょう。
汗の不快感、ベタつきとニオイの正体
しかし、この大切な汗が、時に私たちを悩ませる原因にもなります。特に問題となるのが「ベタつき」と「ニオイ」です。
ベタつきの正体:汗は、ほとんどが水分ですが、微量の塩化ナトリウム(塩分)や乳酸、尿素などの成分も含まれています。これらの成分は、汗が乾きにくくなる原因の一つです。特に暑い環境下では、大量の汗が分泌されるため、肌の上に汗が残り、ベタつきとして感じられます。また、汗と皮脂が混ざり合うことで、さらに不快感が増すことも分かっています。
ニオイの正体:汗そのものは、ほとんどニオイがありません。汗の不快なニオイは、皮膚の表面にいる常在菌が、汗に含まれる成分(特にアポクリン腺から出る汗や皮脂)を分解する際に発生するガスが原因です。汗が長時間肌に留まることで、菌が繁殖しやすくなり、ニオイも強くなってしまうのです。
花王は、長年の研究を通じて、汗中の塩化ナトリウムや皮脂が汗を乾きにくくし、不快感をもたらすことを突き止めてきました。そして、これらの成分を吸着する素材として「多孔質シリカ」を見出すなど、汗の本質研究に取り組んできました。しかし、発汗量が過剰に増える暑熱環境下では、汗が肌上に乾ききらずに残ってしまうという課題がありました。そこで、今回開発されたのが、汗を蒸散しやすくする「汗蒸散技術」なのです。
汗を「活かす」新発想!肌上で汗をすばやく広げ、速く乾かす「汗蒸散技術」
花王が今回開発した「汗蒸散技術」は、汗を止めるのではなく、汗本来の体温調節機能を最大限に活かしながら、肌の快適さを保つことを目指しています。その鍵となるのは、「肌上で汗をすばやく広げ、速く乾かす」というアプローチです。
肌の性質と汗の広がりやすさ
私たちの肌は、実は「疎水性」という性質を持っています。疎水性とは、水をはじきやすい性質のこと。そのため、肌の上に汗が出ても、水滴のようにまとまってしまい、なかなかぬれ広がりにくいのです。汗が広がらなければ、蒸発する表面積も小さくなり、乾くまでに時間がかかってしまいます。
花王の研究者たちは、この肌の性質に着目しました。もし、肌の上に「親水性」の膜を作ることができれば、出てきた汗が肌上ですばやく広がり、蒸散スピードを促進できるのではないかと考えたのです。親水性とは、水と馴染みやすい性質のことです。

親水性板状粉体と多孔質シリカの組み合わせが実現する「スピード蒸散」
親水性の膜を作る素材を探すため、様々な素材をプラスチック基板に塗布し、水滴を垂らして30秒後の「接触角」を測定する実験が行われました。接触角とは、液体が固体表面上で広がる際に、液体の表面と固体表面がなす角度のことです。接触角が小さいほど、液体が表面にぬれ広がりやすい、つまり親水性が高いことを示します。
この実験の結果、特定の「親水性板状粉体」を塗布すると、水滴の接触角が小さくなることが確認されました。さらに驚くべきことに、この親水性板状粉体と、これまでの研究で見出されてきた「多孔質シリカ1」を組み合わせると、接触角はさらに小さくなり、水が非常にすばやくぬれ広がる効果が確認されたのです。
1 無数の小さな穴を持つ二酸化ケイ素。比表面積が大きく、塩化ナトリウムや皮脂などを吸着できる。

この組み合わせによって、汗は肌の上で瞬時に広がり、蒸発する表面積が格段に増えるため、より速く乾くことが期待できます。多孔質シリカは、無数の微細な穴を持つ二酸化ケイ素で、その大きな表面積によって汗中の塩分や皮脂を効果的に吸着する役割を果たします。親水性板状粉体が汗を広げる「誘導役」となり、多孔質シリカが汗の不快成分を「吸収役」として働くことで、相乗効果が生まれるのです。
蒸散時間約33%短縮!人工皮革での実証
実際に、この汗蒸散技術がどれほどの効果を持つのか、肌に見立てた人工皮革を用いた実験が行われました。親水性板状粉体と多孔質シリカを配合したプロトタイプ製剤を人工皮革に塗布し、その上に人工汗2を噴霧して、汗が蒸散するまでの時間を測定3したのです。
その結果、プロトタイプ製剤を塗布した人工皮革での蒸散時間は、未塗布の場合と比べて約33%も短くなることが確認されました。これは、汗が肌の上でより速く乾くことを明確に示しています。
2 水に塩化ナトリウムや乳酸を加えた溶液。
3 30℃湿度60%の暑熱環境下で人工汗が60%蒸散するまでの時間を測定。

このデータは、開発された汗蒸散技術が、汗のベタつきや不快感を軽減し、肌を快適に保つ上で非常に有効であることを裏付けています。汗が肌にとどまる時間が短くなれば、ベタつきが軽減されるだけでなく、ニオイの原因となる菌の繁殖も抑えられるでしょう。
この技術が私たちの未来にもたらすもの
花王が開発した「汗蒸散技術」は、単に汗の不快感を減らすだけでなく、私たちの日常生活に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。
暑熱環境下での生活の質の向上
地球温暖化が進む中で、私たちは今後も暑熱環境と向き合っていく必要があります。この技術が応用された製品が普及すれば、通勤や通学、仕事中、あるいはレジャーなど、あらゆる場面で汗による不快感を気にすることなく、より快適に過ごせるようになるでしょう。汗をかいてもすぐにサラッとした肌を保てることで、自信を持って活動できるようになり、生活の質が向上することに繋がります。
スポーツやアウトドアシーンでの活用
スポーツ選手やアウトドア愛好家にとって、汗はパフォーマンスに直結する重要な要素です。汗が肌にまとわりつくことで、集中力が途切れたり、ウェアが重く感じられたりすることもあります。この汗蒸散技術が応用されたスポーツウェアやボディケア製品は、汗を効率的に処理し、常にドライで快適な状態を保つことで、パフォーマンスの向上に貢献するかもしれません。きっと、長時間の運動でもより快適に集中できるようになるでしょう。
肌の健康維持への貢献
汗が肌に長時間留まることは、あせもや肌荒れの原因にもなります。汗蒸散技術によって汗が速く乾くことで、これらの肌トラブルのリスクを軽減し、肌を健やかに保つ効果も期待できます。特にデリケートな肌を持つ方にとっては、大きな福音となるでしょう。
汗の本質研究から生まれる未来への期待
花王は、今回の汗蒸散技術の開発にとどまらず、今後も汗の本質研究を深めていくと表明しています。汗が私たちの体にとってどれほど重要であるかを理解し、その機能を最大限に活かすことで、生活者が暑熱環境下で感じる汗由来の不快感を低減することを目指しています。
この研究成果の一部は、2025年12月8日から10日に神奈川県で開催される「第3回日本化粧品技術者会学術大会」にて発表される予定です。このような専門的な学会での発表は、この技術が科学的根拠に基づいた信頼性の高いものであることを示しています。
汗の悩みが尽きない現代において、花王が提案する「汗を活かす」という新しいアプローチは、私たちの夏の過ごし方を根本から変える可能性を秘めています。今後、この汗蒸散技術がどのような形で私たちの手元に届き、どれほど快適な毎日をもたらしてくれるのか、その展開に大いに期待が寄せられます。
汗の不快感に悩むすべての人にとって、この技術が明るい未来を切り開く一歩となることを願っています。




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