スマートフォンがもたらす新たな口腔の悩み「スマホ口臭」
現代社会において、スマートフォンは私たちの生活から切り離せない存在となっています。移動中、仕事中、リラックスタイム、どんな場面でも手放せないという方も多いのではないでしょうか。しかし、この便利なデバイスの長時間使用が、私たちの口腔環境に意外な影響を与えているかもしれません。それは「口臭」です。
近年、スマートフォンの長時間使用は、姿勢の悪化やドライアイといった身体的な不調だけでなく、心理的なストレスとの関連性も指摘されています。そして、このストレスこそが、口腔内の環境を悪化させ、口臭の原因となることがわかっています。ストレスは唾液の分泌を低下させ、口腔内を乾燥させる「ドライマウス」の状態を引き起こしやすいのです。
唾液には、食べかすを洗い流したり、細菌の増殖を抑えたり、酸を中和したりする自浄作用や抗菌作用があります。唾液の分泌が減ると、これらの働きが弱まり、口の中に細菌が繁殖しやすくなります。特に、口臭の主な原因となる揮発性硫黄化合物(VSC)を生成する嫌気性菌が増殖しやすくなるため、口臭が悪化する可能性が高まるのです。
なぜスマートフォン使用が口臭につながるのか?
スマートフォンを使用しているときの姿勢を思い出してみてください。多くの場合、顔を下に向けて画面に集中し、無意識のうちに口が半開きになっていませんか?この状態が長時間続くと、口呼吸になりやすく、さらに口腔内が乾燥する原因となります。また、集中することで無意識に唾液を飲み込む回数が減ったり、唾液腺への刺激が減少したりすることも考えられます。
さらに、スマートフォン使用による心理的ストレスも大きな要因です。研究によれば、スマートフォンの過度な使用は、対人ストレスや不安感の増加と関連があることが示唆されています(参考文献1)。ストレスを感じると、私たちの体は交感神経が優位になり、唾液の分泌が抑制されがちです。これにより、口腔乾燥が進行し、口臭の原因となる細菌が増殖しやすい環境が整ってしまうのです(参考文献2, 3)。
このように、スマートフォンの長時間使用は、直接的・間接的に口腔環境に悪影響を及ぼし、口臭の原因となる可能性を秘めているのです。
ガム咀嚼が口臭改善に役立つ理由
口臭が気になるけれど、スマートフォンを手放すことは難しい……そんな悩みに寄り添う、手軽で効果的な対策が「ガム咀嚼」です。ガムを噛むというシンプルな行為には、私たちの口腔環境を改善し、口臭を抑制する様々なメリットが隠されています。
唾液分泌の促進
ガムを噛むことは、唾液腺を物理的に刺激し、唾液の分泌を強力に促進します。唾液は口腔内の健康維持に不可欠な存在です。分泌量が増えることで、以下のような効果が期待できます。
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口腔内の洗浄: 食べかすや細菌を洗い流し、口の中を清潔に保ちます。
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抗菌作用: 唾液に含まれるリゾチームやラクトフェリンといった抗菌成分が、口臭の原因菌の増殖を抑えます。
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緩衝作用: 口腔内のpHバランスを中性に保ち、酸による歯のエナメル質の溶解を防ぎます。
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粘膜保護: 口腔粘膜を潤し、乾燥による不快感やダメージから保護します。
特に、唾液中には免疫グロブリンA(S-IgA)と呼ばれる免疫物質も含まれており、ガム咀嚼によってその分泌が促進されることも報告されています。これにより、口腔内の免疫機能が向上し、健康な状態を維持する助けとなるでしょう(参考文献5)。
ストレスの緩和
意外に思われるかもしれませんが、ガムを噛むことはストレスの緩和にもつながります。咀嚼運動は、脳内のセロトニンという神経伝達物質の分泌を促すことが知られています。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神を安定させ、リラックス効果をもたらす働きがあります。また、咀嚼によって脳に適度な刺激が与えられ、集中力や判断力の向上にも寄与すると言われています。
継続的なガム摂取が、ストレスホルモンの減少や自律神経のバランス改善に影響を与える可能性も示唆されています(参考文献4)。スマートフォンの長時間使用でストレスを感じやすい現代人にとって、ガム咀嚼は心身のリラックスにも役立つ、手軽なセルフケアと言えるでしょう。
ロッテの最新研究が解き明かす「スマホ口臭」抑制のメカニズム
このようなガム咀嚼の健康効果に着目し、株式会社ロッテは「噛むこと」の健康機能に関する様々な研究に取り組んでいます。そしてこの度、スマートフォン使用時に増加する口腔内の口臭原因物質を、ガム咀嚼によって抑制できることを科学的に確認したと発表しました。この研究成果は「薬理と治療(2025年53巻9号)」に論文として掲載されています。
研究の目的と方法
この研究は、スマートフォンの長時間使用と口臭発生の関連性に着目し、さらにガム咀嚼がその口臭を抑制する効果があるのかを検証することを目的として行われました。
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対象: 20~60代の健常な男女26名
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試験デザイン: オープンランダム化クロスオーバー比較試験
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期間: 2025年3月~4月
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方法: 対象者は「ガム咀嚼あり」と「ガム無摂取」の2つの条件下で、それぞれ30分間スマートフォンを使用しました。スマートフォンの使用前後で、口腔内の主要な口臭成分である揮発性硫黄化合物(VSC)の量を、PTR-ToF-MSという高感度な測定機器を用いて測定し、2つの条件間で比較が行われました。
揮発性硫黄化合物(VSC)とは?
VSCは、主に口腔内の嫌気性細菌が、食べかすや剥がれ落ちた細胞のタンパク質を分解する過程で生成されるガス状の物質です。硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドなどがその主成分であり、これらが口臭の主な原因となります。これらの物質は非常に微量でも特有の不快な臭いを放ち、口臭の強さと密接に関連していることが知られています。
PTR-ToF-MSとは?
PTR-ToF-MS(Proton Transfer Reaction Time-of-Flight Mass Spectrometry)は、リアルタイムで空気中の微量な揮発性有機化合物を高感度かつ高精度に定量できる最新の測定機器です。今回の研究では、この機器を用いることで、口腔内の口臭成分であるVSCの微細な変化を正確に捉えることが可能となりました。
驚きの研究結果!ガム咀嚼で口臭成分が抑制
研究の結果、まず「ガム無摂取」の条件下で30分間スマートフォンを使用した後には、口臭成分であるVSCの総量が有意に増加することが確認されました。これは、スマートフォンの長時間使用が実際に口臭の原因物質を増加させることを示すものです。
しかし、「ガム咀嚼あり」の条件下で30分間スマートフォンを使用した場合では、VSC総量の増加が有意に抑制されることが明らかになりました。この結果は、ガムを噛むという行為が、スマートフォンの使用に伴う口臭成分の増加を効果的に防ぐことを明確に示しています。
このグラフは、スマートフォン使用によって口臭成分が増加すること、そしてガムを噛むことでその増加が抑えられることを視覚的に示しています。無摂取条件下では口臭成分(ppb)が使用後に増加しているのに対し、ガム摂取条件下ではその増加が抑制されているのがわかります。
この研究は、スマートフォンが手放せない現代において、手軽にできる新しい口臭ケアの可能性を示す画期的な成果と言えるでしょう。
日常生活にガム咀嚼を取り入れて、快適なデジタルライフを
今回の研究結果は、私たちの日常生活にすぐに取り入れられる、実践的な口臭対策を示唆しています。スマートフォンを長時間使用する際、特に集中している時やストレスを感じやすい時こそ、ガムを噛んでみませんか?
ガム咀嚼は、ただ口臭を抑えるだけでなく、以下のような様々な健康メリットも期待されています。
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集中力・記憶力の向上: 咀嚼運動が脳への血流を促進し、認知機能の向上に寄与すると言われています。
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リフレッシュ効果: 気分転換や眠気覚ましにもなり、仕事や勉強の効率アップにもつながります。
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満腹感の促進: 食事前にガムを噛むことで、食べ過ぎを防ぎ、ダイエットのサポートにもなります。
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顎の健康維持: 咀嚼筋を鍛え、顎関節の機能を維持する上でも重要です。
口臭ケアのヒント
口臭対策は、ガム咀嚼だけでなく、日々の口腔ケアの積み重ねが大切です。以下のような習慣もぜひ取り入れてみてください。
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丁寧な歯磨き: 毎日の歯磨きで、歯垢や食べかすをしっかり除去しましょう。
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舌磨き: 舌の表面に付着する舌苔(ぜったい)も口臭の原因となります。優しく磨いて清潔に保ちましょう。
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デンタルフロスや歯間ブラシの活用: 歯ブラシでは届きにくい歯と歯の間の汚れも、しっかり除去することが重要です。
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定期的な歯科検診: 虫歯や歯周病も口臭の原因となります。定期的に歯科医院でチェックを受けましょう。
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水分補給: 口腔乾燥を防ぐために、こまめな水分補給も忘れずに。
これらの対策と合わせて、スマートフォン使用時のガム咀嚼を習慣にすることで、より効果的に口臭をケアし、快適で自信に満ちた毎日を送ることができるでしょう。
「噛むこと」の可能性を追求するロッテの挑戦
株式会社ロッテは、長年にわたり「噛むこと」が持つ様々な健康機能に着目し、その可能性を深く探求しています。その活動の中心となっているのが、自治体や研究機関、企業と連携し、最適な“噛む”を提供することを目指して設立された「噛むこと研究部」です。
噛むこと研究部では、“噛む”という行為が、私たちの脳や心、身体にどのような影響を与えているのかを科学的に明らかにするため、日々研究活動を行っています。今回のスマートフォン使用時の口臭抑制に関する研究も、その活動の一環として生まれた貴重な成果です。
ロッテは「お口の恋人」として、今後も皆さんの健康と快適な生活に寄り添い、「噛むこと」の研究を進め、その有効性を広く啓発していくことでしょう。噛むことに関するより詳しい情報は、以下の「噛むこと研究室ホームページ」で確認できます。
まとめ
スマートフォンの普及とともに、私たちの生活は豊かになりましたが、それに伴う新たな健康課題も生まれています。今回のロッテの研究は、スマートフォン使用時の口臭という、これまであまり注目されてこなかった問題に対し、ガム咀嚼という身近な方法で解決の糸口を示してくれました。
この研究成果は、デジタルデバイスが欠かせない現代において、より快適で健康的なライフスタイルを送るためのヒントを与えてくれます。口臭はデリケートな悩みですが、ガムを噛むという簡単な習慣を取り入れることで、その不安を軽減し、自信を持ってコミュニケーションを楽しめるようになるでしょう。ぜひ、今日からスマートフォンを使うときに、ガムを噛むことを意識してみてください。


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