「職場のモヤモヤ」これってハラスメント?世代間で異なる認識と、見過ごされがちな“無礼な言動”の構造に迫る

ヘルスウェルビーイングニュース

現代の職場では、多様な価値観を持つ人々が共に働いています。しかし、その多様性ゆえに、ちょっとした言動が摩擦を生んだり、「これってハラスメント?」と疑問に感じたりする場面も少なくありません。特に、若手とシニア世代の間では、同じ言動でも受け止め方が大きく異なることがあるようです。

株式会社コーナーが実施した「職場のインシビリティ(無礼な言動)」に関する最新調査の第2弾では、なぜ職場の無礼な言動が改善されにくいのか、その構造的な問題に焦点を当てています。この調査結果は、「注意が生まれにくい構造」と「認識・感じやすさのギャップ」が、職場のインシビリティを固定化させてしまう可能性を示唆しています。この問題は、単なる個人の性格の問題ではなく、組織全体のコミュニケーションや文化に深く根ざしているのかもしれません。

インシビリティとは?ハラスメントとの境界線

まず、「インシビリティ(Workplace Incivility)」という言葉について理解を深めましょう。これは「相互尊重という職場の規範に反しながらも、意図が明確でない低強度の逸脱行為」と定義されます。具体的には、言葉を遮る、感謝を示さない、貢献を軽視する、意思決定から排除するといった行為がこれに当たります。ハラスメントのように明確な基準で判断されるケースが少ないため、「グレーゾーン」として見過ごされがちですが、これが職場の心理的安全性やエンゲージメントを徐々に蝕んでいく可能性があります。

インシビリティは、一見すると些細なことのように思えるかもしれません。しかし、このような無礼な言動が日常的に繰り返されることで、職場の雰囲気は悪化し、従業員のモチベーション低下やストレス増大につながることが考えられます。特に、働き方の多様化や立場の違いが大きい現代の職場環境では、価値観や期待役割のズレが日常的な摩擦につながる場面も増えており、こうしたインシビリティへの意識を高めることが重要です。

調査レポートのタイトル画像。職場における隠れたハラスメント問題に焦点を当て、なぜ問題が放置され改善されないのかを提起している。

調査サマリーから見えてくる職場の実態

今回の調査では、職場のインシビリティに関する興味深い実態が明らかになりました。その主なポイントを見ていきましょう。

1. 問題解消につながりにくい行動パターン

インシビリティを経験したり、見かけたりした際、多くの人が「流す・距離を置く」という行動を選んでいます。注意や相談といった、問題の根本的な解消につながる行動は少ない傾向にあります。これは、関係悪化への懸念や、「言っても変わらない」という諦めが背景にあると推測されます。目の前の人間関係を壊したくない、余計な波風を立てたくない、そう考えるのは自然な感情かもしれません。しかし、こうした行動が、結果的にインシビリティを「改善されない構造」として定着させてしまう要因となっているのです。

2. 経験の「感じやすさ」に世代・性別差

インシビリティの経験の「感じやすさ」には、性別や年代によって差があることが判明しました。例えば、20代は「感謝・労いの欠如」や「高圧的な言動」を経験しやすい傾向にあります。一方、50代では「機会の不平等」や「意思決定からの排除」を経験しやすい傾向が見られます。これは、それぞれの世代が置かれている立場や役割、そして社会人としての経験値が異なるため、受け止め方や重視するポイントが違うことを示唆しています。若手は直接的なコミュニケーションにおける尊重を求め、シニアはキャリア形成や組織における公平性を重視する、といった違いがあるのかもしれません。

3. 発生要因の捉え方も多様

インシビリティの発生要因に対する捉え方にも違いがあります。20〜30代の女性は「年齢・世代差」を主な要因として挙げる一方、40〜50代の男性は「役職・権限差」を主な要因として選んでいます。この結果は、インシビリティが単一の原因で発生するのではなく、個人の属性や立場によって、その背景にある問題意識が異なることを浮き彫りにしています。世代間の価値観のギャップや、組織内のヒエラルキーが、無礼な言動を生み出す土壌となっている可能性が考えられます。

4. 半数以上が「ハラスメントのグレーゾーン」と認識

驚くべきことに、全体の半数がインシビリティを「ハラスメントに該当し得る」と認識しているにもかかわらず、「明確にハラスメント」と判断する層は22%に留まっています。この結果は、多くの人がインシビリティを“グレーゾーン”として捉えていることを示しています。明確な線引きが難しいからこそ、どう対処すべきか迷い、結果的に放置されてしまう、という悪循環が生まれているのかもしれません。

5. 求められるのは「組織」による環境整備

インシビリティへの対応ニーズは、個人の意識改善よりも「ルールや基準の明確化」「役割整理」「コミュニケーション基盤の整備」など、組織側への環境整備に集中しています。これは、インシビリティが個人の問題ではなく、組織の仕組みや文化に起因するものであると、多くの人が感じている証拠でしょう。個人に「もっと気をつけよう」と呼びかけるだけでは根本的な解決にはならず、組織全体で取り組むべき課題として認識されているのです。

主な調査結果の詳細:データが語る職場の現実

インシビリティを経験した・見かけた時の行動

このグラフを見ると、インシビリティを経験した際も、見かけた際も、「波風を立てずに距離を取る」傾向が強いことがよくわかります。経験した本人が上司に相談したり、その場でフィードバックしたりする行動は2〜3割にとどまり、見かけた場合も、その場で伝える・記録に残すといった行動はわずか1〜2割です。この傾向は、インシビリティが組織として表面化しづらいリスクであることを明確に示しています。

多くの人が「言っても無駄」「関係が悪くなるのが怖い」と感じているため、問題は水面下で進行し、誰も対処しないまま放置されてしまう。この「注意が生まれない構造」こそが、インシビリティを職場に固定化させてしまう最大の要因と言えるでしょう。この状況が続けば、従業員は安心して意見を言えなくなり、心理的安全性が低下し、結果として組織全体の生産性や創造性にも悪影響を及ぼしかねません。

インシビリティ経験の属性差

企業内での「態度・言動と年代ギャップ」に関するアンケート結果グラフ。感謝・労いの欠如、高圧的な物言い、機会の不平等、意思決定の排除の経験頻度を20代~50代別に示しており、特に50代では「ほぼ毎日」の経験頻度が高い傾向が見られる。

「感謝・労いの欠如」や「高圧的な物言い」では、20代が「週2~3回程度」で最も多く経験していることがわかります。これは、若手社員が日常的なコミュニケーションの中で、自身の貢献が正当に評価されなかったり、不適切な言葉遣いに直面したりする機会が多いことを示唆しています。

一方で、「機会の不平等」や「意思決定の排除」は50代で経験頻度が高い傾向にあります。特に50代では、提示された4つの項目すべてで経験頻度が高いという結果が出ています。このデータは、インシビリティが若手社員だけの問題ではなく、責任や役割が重くなる中堅〜シニア層にも、継続的に積み重なりやすい問題であることを示しています。シニア層は、長年の経験と知識を持ちながらも、新しい意思決定プロセスから外されたり、公平な機会が与えられなかったりすることに不満を感じているのかもしれません。これは、組織における世代間のコミュニケーションや役割分担のあり方について、深く考えるきっかけとなるでしょう。

インシビリティのハラスメント認識

職場におけるインシビリティ(無礼な言動)がハラスメントに当たるかどうかの認識を、男女・年代別に示した棒グラフ。女性50代と男性50代が「明確にハラスメントに当たる」と回答した割合が最も高く、両者とも37.2%でした。

インシビリティをハラスメントとみなすかどうかは、性別や年代によって認識が大きく異なります。女性は年代が上がるにつれてハラスメントとして明確に問題視する割合が高まる傾向が見られます。特に女性50代では、「明確にハラスメントに当たる」と回答する割合が37.2%と最も高く、無礼な言動に対する感受性が高いことがうかがえます。

一方、男性は全体的に「境界線だが、ハラスメントとは言えない」と捉える割合が高い傾向にあります。中でも男性40代では「ハラスメントとは言えない」と判断する割合が多く、無礼な言動をハラスメントとして認識しにくい傾向が見られます。しかし、男性50代では反対に「ハラスメントに当たる」と判断する割合が高まることから、年齢と共に経験や立場が認識に影響を与えることがわかります。20代では「ハラスメントに当たらない」と考える割合がやや増えますが、依然としてグレーゾーンとして受け止める傾向は高いです。

この結果は、組織内でハラスメントに関する共通認識を形成することの難しさを物語っています。同じ言動でも、受け手の性別や年代によって、その捉え方がこれほどまでに異なるとなると、個人の努力だけでは解決が難しい構造的な問題と言わざるを得ません。組織は、こうした認識のギャップを埋めるための具体的な取り組みが求められているのです。

専門家からの提言:インシビリティは「仕組み」の問題

株式会社コーナー 代表取締役CHRO 門馬貴裕氏は、今回の調査結果を受けて、インシビリティが「個人の態度の問題ではなく、“仕組みとして起こりうる現象”である」と解説しています。

門馬氏は、「忙しさや権限差といった組織要因が発生を誘発しやすく、組織のリスクとして表面化しづらく、改善されない背景が本調査で明らかになった」と指摘します。多くの従業員が「どうせ変わらない」という諦めや、関係悪化への懸念から注意をすることができず、さらに世代や立場によって「何が問題か」の基準が異なるため、組織としての共通認識が形成されにくい状況が浮き彫りになっています。この「注意が起きない構造」が、インシビリティを固定化させ、協働の質や心理的安全性を下げる大きな要因となっているのです。

この問題に対処するためには、インシビリティを個人の問題として片付けるのではなく、組織内の問題として捉え直す必要があります。コミュニケーション設計の見直し、明確な基準づくり、そして役割整理といった「仕組みの改善」こそが、上司・同僚間の不要な摩擦を減らし、誰もが力を発揮しやすい組織をつくる土台となります。ハラスメント対策や働きやすい職場文化づくりを進める上で、今回の調査結果が重要なヒントとなることを期待されています。

働きやすい職場文化を築くために

今回の調査結果から、職場のインシビリティは、単なるマナーの問題ではなく、組織の健全性や従業員のウェルビーイングに直結する重要な課題であることが浮き彫りになりました。特に、世代間の認識ギャップや、「言っても変わらない」という諦めの感情が、問題の根深さを示しています。

私たち一人ひとりができることはもちろんありますが、根本的な解決のためには、組織全体での意識改革と仕組みづくりが不可欠です。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

  • インシビリティに関する共通認識の醸成: インシビリティとは何か、どのような言動がそれに当たるのかを具体的に示し、全従業員が共通の理解を持つための研修やガイドラインの策定が有効です。特に、世代間の認識ギャップを埋めるための対話の機会を設けることが重要でしょう。

  • オープンなコミュニケーション文化の構築: 従業員が安心して意見を言える、心理的安全性の高い職場環境を目指すことが大切です。定期的な1on1ミーティングや、匿名での意見提出システムなどを導入し、問題が表面化しやすい仕組みを整えることも有効です。

  • 明確なルールと基準の設定: ハラスメントだけでなく、インシビリティについても、どのような言動が許容されず、どのような対処がなされるのか、明確なルールや基準を設けることで、従業員は安心して働くことができます。また、管理職がこれらのルールを理解し、適切に対応できるような教育も欠かせません。

  • 役割と責任の明確化: 各従業員の役割と責任を明確にすることで、不必要な摩擦や期待のズレを減らすことができます。特に、意思決定プロセスや機会の提供において、公平性と透明性を確保することが、シニア層のインシビリティ経験を減らす上で重要となるでしょう。

これらの取り組みは、一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、地道な努力を重ねることで、従業員一人ひとりが尊重され、安心して能力を発揮できる、真に働きやすい職場文化を築くことができるはずです。

調査概要

  • 調査タイトル: 職場におけるインシビリティ実態調査

  • 調査対象: 日本国内の就業中の20〜50代男女

  • 調査期間: 2025年9月17日〜9月19日

  • サンプル数: 624名

  • 調査実施者: 株式会社コーナー/マクロミル

  • 調査方法: Webアンケート調査

この詳細な調査レポートは、株式会社コーナーのウェブサイトからダウンロード可能です。人事施策の企画・検討にぜひお役立てください。
https://www.corner-inc.co.jp

株式会社コーナーについて

株式会社コーナーは、「人事を変え、組織を変え、世界を変える」というパーパスのもと、代表の門馬貴裕氏が2016年に創業しました。人事プロフェッショナルブティック「CORNER」を提供し、採用、労務、制度設計、組織・人材開発、人的資本の情報開示やDE&I推進など、個別多様な組織課題を解決し事業を成長させたい企業を支援しています。

即戦力となるパラレルワーカー(複数の企業に関わって働く人)を繋ぎ、コーナーの人事コンサルタントとワンチームになって実働型で支援するスタイルが特徴です。パラレルワーカーの登録は1万人を突破しており(2025年1月時点)、多様な人材と企業の橋渡し役として、人事・ESG領域に特化した課題解決支援サービスを展開しています。

会社概要

  • 代表者: 代表取締役 門馬貴裕

  • 所在地: 東京都渋谷区渋谷1-1-3 第35荒井ビル 8・9F

  • 事業内容: 人事・ESG領域に特化した課題解決支援サービス

  • 会社HP: https://www.corner-inc.co.jp/

職場のインシビリティ問題は、現代の企業が向き合うべき重要な課題の一つです。今回の調査が、より良い職場環境を創造するための第一歩となることを願っています。

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