口内フローラが腸内環境の鍵? ライオンとサイキンソーの共同研究で明らかになった口腔と腸の深い関係

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口内フローラが腸内環境の鍵? ライオンとサイキンソーの共同研究で明らかになった口腔と腸の深い関係

皆さんは、お口の中の健康と、お腹の中の健康が深くつながっていると聞いたら、どう思われますか? 実は、この二つの健康は、私たちが想像する以上に密接な関係にあることが、最新の研究で明らかになりつつあります。

2025年11月18日、ライオン株式会社と株式会社サイキンソーは、口腔内細菌叢(口内フローラ)と腸内細菌叢(腸内フローラ)に関する共同研究の成果を発表しました。この研究は、消化管の入り口であるお口の中の環境が、お腹の中の環境の安定に深く関わっている可能性を示唆しており、私たちの日々の健康習慣を見直すきっかけとなりそうです。第67回歯科基礎医学会学術大会で発表されたこの重要な知見について、詳しく見ていきましょう。

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口腔と腸、見過ごされがちな「つながり」の重要性

私たちの身体には、実に多くの細菌が共生しています。特に、お口の中と腸の中には、それぞれ独自の「フローラ(細菌叢)」が形成されており、そのバランスが私たちの健康に大きく影響を及ぼしていることが分かってきています。お口の中の口内フローラは、食べ物の消化の第一歩を担うだけでなく、全身の健康の入り口とも言える重要な存在です。

これまで、むし歯や歯周病といった口腔疾患の予防には、歯磨きなどの「プラークコントロール」が重要だと考えられてきました。しかし近年では、お口の中の細菌全体のバランスを整える「フローラケア」という考え方が注目されています。ライオンも、この口内フローラに着目し、様々な研究を進めてきました。

一方で、腸内フローラは、私たちの免疫機能や代謝、さらには脳の働きにまで影響を与えることが示唆されており、全身の健康を考える上で欠かせない存在です。腸内フローラのバランスが崩れると、便秘や下痢といった消化器症状だけでなく、アレルギーや自己免疫疾患、うつ病など、様々な不調につながる可能性が指摘されています。

お口は消化管の入り口であるため、口内フローラの状態が腸内フローラの構成に影響を与える可能性は十分に考えられます。しかし、具体的な関連性や作用の仕組みについては、まだ十分に解明されていませんでした。そこでライオンは、データサイエンスの力で身体の細菌叢を解明し、ヘルスケアへの貢献を目指すサイキンソーと手を組み、口腔を起点とした健康増進の実現に向けた共同研究を開始しました。

株式会社サイキンソーは、2014年11月に設立され、「細菌叢で人々を健康に」を企業理念に掲げています。個人向けの腸内細菌叢検査サービス「マイキンソー」や、医療機関向けの口腔内細菌叢検査サービス「マイキンソー オーラル」などを通じて、一人ひとりの細菌叢解析結果に基づいた生活習慣改善のアドバイスやコンテンツを提供しており、この分野におけるリーディングカンパニーの一つです。

ライオンは2024年6月にサイキンソーへ出資しており、両社の連携は、身体の細菌叢を解き明かすことによるヘルスケアへの貢献を目指す、まさに未来志向の取り組みと言えるでしょう。

良好な口腔環境のサイン「ナイセリア」と、腸内環境の安定性

今回の共同研究では、サイキンソーが提供する「マイキンソー」と「マイキンソー オーラル」の両方を利用した247名のデータを詳細に分析しました。その結果、非常に興味深い関連性が明らかになりました。

1. 「ナイセリア」が多い人は腸内フローラの多様性が高い可能性

研究で特に注目されたのは、「ナイセリア(_Neisseria_属)」という口腔内細菌です。この細菌は、口腔状態が良好な人に多く存在することが知られており、硝酸還元細菌の一つとして、口腔内の酸性度低下を抑えたり、むし歯や歯周病の原因菌の増殖を阻害したりする可能性が報告されています(Rosier BT, et al. J Dent Res. 2022;101(8):887-897.)。

口内フローラは、大きく2つのタイプに分類されることが先行研究で示されています(Willis JR, et al. Microbiome. 2018;6(1):218. および Takeshita T, et al. Sci Rep. 2016;6:22164.)。今回の研究では、被験者の口内フローラをこれらのタイプに分け、腸内環境との関連性を調べました。

その結果、口内フローラ中のナイセリアの存在比率が高い「タイプA」の人は、腸内フローラの多様性(Shannon多様性指数)が高い傾向にあることが示されました。腸内フローラの多様性とは、腸内に生息する細菌の種類がどれだけ豊富で、バランスが取れているかを示す指標です。一般的に、多様性が高いほど腸内環境は安定していて良好であると考えられています(Lozupone CA, et al. Nature. 2012;489:220-230.)。

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さらに、ナイセリアの存在比率が高い人ほど腸内フローラの多様性が高いという明確な関係が確認されました。このことから、お口の中にナイセリアが多く存在し、良好な口腔状態にある人は、腸内環境も良好である可能性が高いと言えるでしょう。

2. 「ヴェイロネラ」や「ミュータンス」が多いと腸内フローラの多様性が低い可能性

一方で、口内フローラ中の「ヴェイロネラ(Veillonella_属)」や、むし歯の主要な原因菌である「ミュータンス(_Streptococcus mutans)」が多い人では、異なる傾向が見られました。

ヴェイロネラは、ほとんどすべての人の口の中から検出される口腔常在菌ですが、ナイセリアの存在比率が高い人の口内フローラでは、その存在比率が低くなる傾向が報告されています(Willis JR, et al. Microbiome. 2018;6:218.)。今回の研究では、ヴェイロネラの存在比率が高い人ほど、腸内フローラの多様性が低いことが分かりました。

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この結果は、口内フローラのバランスが、腸内フローラの健全性に影響を及ぼす可能性を示唆しています。つまり、お口の中の特定の細菌のバランスが崩れると、それが腸内環境の多様性低下につながり、ひいては腸内環境の不安定化を招く可能性があるということです。

3. 口腔内の要注意菌が腸内にも検出されやすい傾向

さらに、口内フローラに特徴的な細菌が、腸内フローラでどのように検出されるかを調べたところ、興味深い事実が明らかになりました。

ナイセリアは、口内フローラ中の存在比率に関わらず、腸内フローラからはほとんど検出されませんでした。これは、ナイセリアがお口の中で主にその役割を果たし、腸にはあまり定着しないことを示唆しています。

しかし、ヴェイロネラやミュータンス菌については、異なる結果が出ました。口内フローラ中にヴェイロネラやミュータンス菌が多く存在する人では、腸内フローラからもこれらの細菌が検出されやすい傾向が認められたのです。

具体的には、口内でヴェイロネラの存在比率が高い人は、低い人に比べて腸内で検出されるオッズ比が約2.9倍に、またミュータンス菌が口内で検出される人は、検出されない人に比べてオッズ比が約8.7倍に上昇していました。オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを比較する指標で、この場合は「腸内でこれらの細菌が検出される確率」が何倍違うかを表します。

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この結果は、お口の中にヴェイロネラや要注意菌であるミュータンス菌が多く存在すると、それらが腸内へと到達し、腸内フローラの状態に何らかの影響を及ぼす可能性を示唆しています。ミュータンス菌は、砂糖を分解して酸を作り、歯を溶かすことでむし歯を引き起こすことでよく知られています。もしこのような菌が腸内にも定着するとしたら、それが腸の健康にどのような影響を与えるのか、今後の研究が待たれます。

この研究が示唆すること:口腔ケアは「腸活」の第一歩?

今回の共同研究から、以下の2点が強く示唆されます。

  1. ナイセリアが多く存在する良好な口腔環境は、多様性の高い良好な腸内環境と関連する。
  2. 口内フローラにヴェイロネラやミュータンスが多く存在すると、腸内フローラにもこれらの菌が存在しやすくなり、腸内環境に影響を及ぼす可能性がある。

これらの知見は、口腔環境を良好な状態に保つことが、腸内フローラの健全性にもつながる可能性を示しています。つまり、日々の丁寧な口腔ケアは、単にお口の中の健康を守るだけでなく、全身の健康、特に腸の健康にも良い影響を与える「腸活」の重要な一歩となるかもしれません。

今後の展望:口腔から始まる全身の健康ケア

ライオンは、今回の研究成果を受けて、口腔トラブルを繰り返さないためには、一時的に原因菌を除去するだけでなく、お口の中に存在する細菌全体のバランスを整える「フローラケア」が重要であると考えています。フローラケアとは、微生物との共存関係を良好に保つことで、繰り返される不具合の予防を目指す菌叢制御研究の概念です。

今後、ライオンは、口内フローラのバランスを整える新しいオーラルヘルスケア習慣を提案するとともに、口腔と全身の健康との関連性をさらに深く研究し、口腔を起点とした健康増進に貢献していく方針です。

サイキンソーもまた、これまでも腸内フローラ検査サービス「マイキンソー」の結果に応じて口腔ケアを推奨するなど、腸内と口腔内の関連性に着目した情報提供を行ってきました。今回の共同研究で示唆された「口腔環境と腸内環境の関連性」は、消化管全体の健康を考える上で非常に重要な知見であると捉えています。

今後は、この成果を活かし、「口腔ケアを通じた腸活」という新たな視点からの取り組みも進めていくとのことです。さらに、関連研究を発展させ、科学的根拠に基づき、一人ひとりの状態やタイプに応じた口腔環境ケアの探求を進め、人々の健康増進に貢献していくことが期待されます。

関連情報とセミナーのご案内

今回の研究成果は、2025年9月5日~7日に福岡県の北九州国際会議場で開催された第67回歯科基礎医学会学術大会にて、「口腔細菌叢の構成が腸内細菌叢の多様性および菌種構成に与える影響の検討」という演題で発表されました。

この研究は、私たちの健康に対する理解を深め、より効果的なセルフケアや予防法の開発につながる、非常に価値のある一歩と言えるでしょう。お口の中の健康が、全身の健康、特に腸の健康にこれほど深く関わっているという事実は、日々の歯磨きや口腔ケアのモチベーションを高めてくれるはずです。

セミナー情報

サイキンソーでは、今回の研究に関連したオンラインセミナーも開催されます。ご興味のある方は、ぜひ参加を検討してみてはいかがでしょうか。

テーマ:お口の中の善玉菌が健康のカギ!?オーラルケアが腸活に!?
主催:株式会社サイキンソー
開催日時:2025年11月25日(火)12:00~13:00
形式:オンライン
登壇者:株式会社サイキンソー 管理栄養士 小川 静香、ライオン株式会社 研究開発本部 山 和馬

参加受付は2025年11月21日(金)13:00までとなっています。
セミナー詳細はこちら

その他の関連情報

今回の研究は、口腔ケアが単なるお口の健康維持にとどまらず、全身の健康、特に腸内環境の安定にまで影響を及ぼす可能性を示唆する、非常に重要な一歩です。これからも、お口と腸のつながりに注目し、日々の健康習慣を大切にしていきましょう。

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